仁術?

丘を越え細い路地をいくつも曲がって、検診の結果を聞きに行った。いまから一昔ほど前に出産した小さな医院へ。白髪の目立つ先生も、あいかわらずおしゃれな(ちょっと『奥さまは魔女』のサマンサの母風メイク)院長の奥さまもご健在だった。

この産院は、院長ご夫妻のほかは二人ぐらいの助産師さんたちからなっていて、入院中は奥さまが食事の用意などをしてくださっていた。昭和の香りのただよう院内二階の病室に先客はひと組だけで、そのひと組もすぐに退院した後は私たち母子が独占した。部屋には線の映るテレビと、三十年ぐらい前の命名本。院長は、なかなかの書家でもあり、命名の色紙をプレゼントしてくださった。

受付にも顔見知りの助産師さんがおられ、カルテを探してくださった。古いけれどしっかり暖められた待合室では、あいかわらずテレビがつけっぱなしだった。(部屋のテレビと違って、こちらはちゃんと映る。笑)幸い、検診の結果は白。古風なところのある院長先生が(お年を考えればふつうだけど)、検査のためにとった写真を、一日ぐらいは神棚にでもあげてねとおっしゃったのが印象的。

ここ数日、子どものケガやら身内の病気やら、いくつかの小さな不安に揺らいでいた心がふわっと温かくなったのは、もちろん暖房のせいだけではないよね。