両親の教え

 ふたりが教えてくれたことはたくさんありますが、「老い」がどんなものか身をもって示してくれたのは、自分にとってとても大きな遺産だと感じます。

 数年前に老眼が始まったときに思い出したのが、昔母が「もう目が見えないようになった。夜になると本が読めない」と言ったことでした。私が小さいころは布団の中で本を読んでくれたものでしたし、覚えている限り、寝る前に布団の中で本を読んでいる母でした。

 孫が生まれたのは両親とも60代の初めで、その頃はまだ元気にあちこちへ出かけたものでした。孫が小学生のときに一緒に行った沖縄では、中年の娘(私)より元気に路線バスにのりついで南北に長い島を行き来したりして…

 父は定年後も数年間嘱託で働き、その後はボランティア活動を、母も70代前半まで、身内の介護や地域での活動をしていました。70代後半になると少しずつ体力が落ちてきているのがわかるようになり、認知症の気配も見えてくるようになって、一緒に行っていた旅行などでもあぶなっかしいところが出てきたのでした。

 4年前には父が家の中で転んで骨折し、その後は一人暮らしになった父が、自分がいなくなっても困らないようにさまざまな手続きをすませていてくれていたことが、彼が亡くなった今になってわかりました。

 自分に同じようにできるかどうか心もとないですが、今後どのように衰えていくのかについてのイメージがあるのは助かります。そうして逆算していくと、残された時間は限られているのだなあと感じるのでした。新しいことに挑戦する気持ちはなくしたくないけれど、あれこれ手を出しすぎるのはやめておこうと自戒しています。

 

近所でみかけた色鮮やかなカラスウリ。