達人逝く

  私事で恐縮ですが、先日父を亡くしました。3月が誕生月なのですが、10日ほど遅れて誕生祝をした翌翌週には葬儀が終わっているという、いまだに信じられない急な出来事でした。

  子どもの頃に風邪をこじらせて片耳を悪くし、40代でもう片方の耳の聴力も失い、そのほか体のあちこちに故障をかかえ、病院に見舞ったことは数知れずでしたが、晩年はいろんな方の手を借りて一人暮らしを楽しんでいました。

「楽しむ」ことの上手な、人生の達人でした。いつも面白いこと(たまにグサッとくることも)を言って周りを笑わせていました。定年を迎えてからは、母とあちこち旅行に出かけ、同窓会の広報紙づくりや、難聴者団体の仕事なども喜んで引き受けていたようです。コロナ前までは、年に一度は子や孫たちとも旅行にでかけ、成人を迎えた孫たちとお酒を飲むという夢もかなえていました。コロナで出かけられなくなっても、パソコンを使って趣味の囲碁を楽しんでいました。

  最後まで家族のことを気遣い、この世の去り方も、離れて住む私たちの心の負担を軽くしてくれる去り方でした。体に似合わず頭の大きい人でしたが、そこには知識だけでなく愛もたくさん詰まっていたようです。

 

御衣黄という桜。黄緑の花を咲かせる。