グランマ・モーゼス展 You must never give up.

 5年ほど前の夏、ニューヨーク州北部のWatershed centerという場所https://www.thewatershedcenter.org/に数日間滞在したことがある。夢のように美しい場所だった。19世紀の農場をリトリート施設に改造したもので、およそ30万㎡の敷地内には木々に囲まれた池もあったし、納屋らしき建物もあった。

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写真はそのときのもの。

 

 現在、世田谷美術館で開催中の「グランマ・モーゼス展ー素敵な100年人生」(~2/27)では、そのような農場の「昔」の姿をほうふつとさせる絵を見ることができる。アンナ・メアリ・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)が描く「古き良き日々」の農場での生活。何と彼女は80を目前にしてコレクターに見いだされ、101歳まで生き、Times誌やLife誌の表紙も飾った。遅咲きの活躍ぶりと長寿は、ひとに(おそらくは多くの女性に)希望を持たせてくれる存在であり、展示会場も関連グッズ売り場も熱心な観客であふれていた。 

 

モーゼスおばあさんの四季―絵と自伝でたどるモーゼスおばあさんの世界

 

  彼女の作品のなかで、私が印象に残ったのは嵐の訪れとそれに右往左往する人たちを描いたものと、メープル・シロップ作りの様子を描いたもの*1

 ニューヨーク生まれの植物学者ロビン・ウォール・キマラーは、自身のくらすニューヨーク州オノンダガを「メープル・ネイション」と呼ぶ。そこでは冬が終わるころーメープル・シュガー・ムーンと北米先住民ポタワトミの人びとが呼ぶ季節*2ーにカエデの樹液を集めてメープル・シロップを作るのだ。自給自足の生活をしているポタワトミの人びとの「蓄えた食料が底をつき、狩りの獲物も少ない」3月に、「メープルは食べ物を人びとに与えて彼らを救った」ので人びとは「お返しに」「樹液を集め始める前に感謝の儀式を執り行った。」(同前)そうだ。

 メープル・シロップづくりは、先住民にとっても、そこに住み着いた新しい住民にとっても、骨は折れるけれども自然の恵みを感じられる作業。こんなシンプルな喜びを、スーパーに行けば簡単に砂糖やそれを使った菓子が手に入る今の時代では忘れがちだなあ、というようなことをあんこ入りのきぬた焼き(今川焼、大判焼きともいう。世田谷美術館のある砧公園の売店で販売)を食べながら考えた。タイトルにある”You must never give up.”は「モーゼスおばあさん」の言葉。

 

植物と叡智の守り人

 

 

*1:Sugaring Off, 1943 - Grandma Moses - WikiArt.org

*2:『植物と叡智の守り人』三木直子訳、2018年、93頁