ラ・ヨローナ

 La Llorona(私は「ラ・ジョローナ」と発音したい)というのは植民地時代のメキシコが起源と考えられているおばけ。諸説あるが、自分の子どもをおぼれ死なせてしまった女の幽霊が水辺などにあらわれ、見た人を死に誘うなどの伝説が、北米から南米の広い地域にひろがっている。lloronaは「泣く女」という意味の単語なので、すすり泣くような声が聞こえたりするらしい…

 その「ラ・ヨローナ」をそのままタイトルにした映画がある。副題は「彷徨う女」ー「泣く女」という副題の別の映画もあるのでお間違いなきよう。

 

ラ・ヨローナ ~彷徨う女 [DVD]

(ハイロ・ブスタマンテ監督、2018年、グアテマラ/フランス)

 

 すごくいいという評判を聞いていたのだけれど、ホラーは苦手で迷っていました。でも、中米が舞台の映画が少なくて、職業的関心から観たら、私もやっぱり薦めたくなったので書きます。

 ネタバレになってしまうのであらまししか書けないのだけれど、内戦時代の先住民虐殺で裁判にかけられた将軍(グアテマラ内戦での先住民の虐殺は事実)とその家族である妻、娘、孫に起こる出来事を淡々と語っていく。庭にプールがあるような大きな屋敷の使用人たちが裁判のあと次々やめてしまい、デモ隊に包囲された家に、ひとりの若い娘がお手伝いとして現れるところから話が展開していく。主従の関係にある人たちの外見的特徴ー肌の白い将軍家族と褐色の肌の使用人たちーが一目でわかるのが映画ならでは。

 最初、まったく感情移入できなかった登場人物のひとりが、そうくるか!という展開でだんだん好ましく見えてくる。「そうだよね、この人だって苦しんできたはず。うんうん」とうなずいているうちに衝撃的な結末を迎える。昔みたリメイク版の映画『トワイライトゾーン』の一話を思い出したりもした。

 

トワイライトゾーン/超次元の体験 [DVD]

ドラマ『コンバット』のサンダース軍曹でおなじみのビック・モローが撮影中に亡くなった、いわくつきの作品です。(ジョン・ランディス他監督、2008年、米国)

 

 流血シーンや激しい暴力の場面は、映像にはほとんど出てこない。それなのにきっちりと事実を観客に知らせ、ちぢみ上がらせる語り口に感心しました。そして、人道に対する罪への裁きを求めて、凄絶な経験を証言する先住民女性たちの強さが印象に残ります。人を踏みつけた人間が、いつまでも責任逃れをすることができる世の中ではなくなりつつあることをひたひたと感じさせるという点が、これまで自分の強い立場に安穏としてきた人びとにとってはホラーなのかもしれません。家の中という閉じられた環境のなかで展開されるひとつひとつのエピソードにドキドキしながら、「悪」について考えさせる良作品でした。

 

こちらでも、泣くばかりではないジョローナの紹介をしています。

clilaj.blogspot.com