お姫様になりたい?

グッド・ワイフ [DVD]

 

 2018年のメキシコ映画。「セレブ主婦のマウント合戦と転落」云々というコピーから想像するよりも、全体的にドライな印象の作品でした。音楽も乾いた感じのクラッピング・ミュージックが耳につきました。映像も淡々としていて、どこか突き放した感じがありました。監督は1982年生まれのメキシコ人のアレハンドラ・マルケス・アベヤで、この映画はメキシコ・アカデミー賞を主演女優賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、音楽賞の4部門で受賞したとか

 1982年のメキシコの経済危機を背景に、それぞれの夫の浮き沈みがセレブな妻たちのサークルの人間関係にも影響を及ぼす様子を描いています。主役はサークルのリーダー的な存在のソフィア・デ・ガライ。ヒロインの名字に"De"がつく(スペイン語圏では結婚後も婚前の姓+夫の姓ー順序は場合によるーを名乗ることができる)ところから、おそらくはかなりの家柄(お金もあることが後にわかる)であることが推察されます。

 詳しい内容は映画をみていただくのがいいと思いますが、いまから30年近く前に住んだことのある南米某国で、お金持ちの集まる場所で(奨学金の関係で義務だった)奥様方とお話しさせてもらった経験から、たしかにこういう人たちがいたなと思い出したのでした。裏も表も必要ない庶民の家庭で育った人間には近寄りがたい、感情をあらわにしないとりすました態度と、自分の価値観に合わない相手をさげすむかたくなさ。

 ーーー以下、あらすじですが、ネタバレも入ります。ーーー

 そんな”上流の”人々に囲まれて育ったソフィアは、3人の子どもがいますが、頭の中はあこがれのスター、フリオ・イグレシアスや、服や美容、バカンスの行先のことでいっぱい。スポーツクラブでの新しい仲間アナ・パウラの言葉遣いや服装などに陰でけちをつける生活を送っています。会社重役の夫と住む豪邸でたくさんの召使にかしずかれ、誕生日プレゼントは新車。

 ですが、経済危機のあおりを受けて、ソフィアは自分の殻から出ていくことになります。ほとんど家の中とスポーツクラブ、子どもの学校と友人宅という狭い生活圏のなかで、息詰まるような細かい心理描写が続く映画なのですが、それだけにラストの解放感がたまりません。長い髪を無造作になびかせ、ジャケットの肩パッドを捨てて歩き出すソフィアのこれからが楽しみになる結末でした。(あくまで私にとっては。ネット上で感想を見た限りでは、見る人によってだいぶ印象がちがうようです)

 主演のイルセ・サラスは、メキシコではよく知られた俳優のようです。ソフィアの微妙な感情を見事に表現していたと感じました。元同級生の友人を演じていたカサンドラ・シアンゲロッティは、『ザ・ウォーター・ウォー』で、ボリビアで水戦争に遭遇する映画撮影隊の一員を演じていたときのナイーブさがウソのようにいやな女になりきっていましたし、『闇の列車、光の旅』でヒロインを演じていたパウリナ・ガイタンは、ドライだけど息苦しい画面(笑)に一抹の生気をもたらしていました。

 

 ちなみに配給は最近注目している http://www.mimosafilms.com/

 

  以下は参考作品。

ザ・ウォーター・ウォー [DVD]

 

闇の列車、光の旅 [DVD]