心のデトックス

その昔、私がテレビをまだ観ていた頃、ハリウッド映画

ユー・ガット・メール (字幕版)

の焼き直しで、舞台を東京にうつしたいわゆる「トレンディ・ドラマ」がありました。今となってはタイトルも思い出せないのですが、このときが初めて藤原紀香さんを見た時だったと思います。FMラジオのDJ役とかで、深々とした落ち着いた声の美人だなあ、というのが第一印象。

それから時がすぎて、先日彼女の登場するお芝居を観てきました。本命は同時上演の別の芝居でしたが、こちらのお芝居の印象が強かったので感想を書いてみます。

終戦から三年後の京都島原の遊郭で、そこに騙されて売られてきた「きみ」という女性(←この前提はすごい。これ、犯罪です…)とそれをめぐる遊郭の女主人おえい、ほかのさまざまな人間模様を描いた作品です。(原作『太夫(こったい)さん』 北條秀司、初演昭和30年)紀香さんが演じているのはこのおきみ。女主人役が波乃久里子さん。

全三幕なのですが、度肝をぬかれる第一幕、しんみりした雰囲気の第二幕があって、最後の第三幕で喜美太夫の花魁姿と幸せな結末に、観客は喜びにひたることができます。新派の舞台は初めて見ましたが、おえい役の波乃さんはじめ、役者さんがみんな芸達者ですばらしかったです。

さすがに古い話なので、せりふが関西弁ということを割り引いてもわからない単語がいくつも出てきました。かろうじて知っている当時の流行言葉「アプレ」なんかも… これは原作の戯曲を読んでみる必要がありそう。

ネタバレになってはいけないので、詳しい内容は書けないのですが、そもそもこのお芝居は喜美のイメージとして京塚昌子さんにあてて書かれたそうで、藤山直美さんも演じたことのある役。というと何か、「あれ、紀香イメージと違う」となると思うのですがそれはみてのお楽しみということで。

ちなみに今回の上演にあたっての、水谷八重子さんと波乃久里子さんの対談の記事がこちら。

 

spice.eplus.jp

 作者の北條さんは、初代おえいの花柳章太郎に頼まれ、一年間遊郭に住みこんでこの戯曲を書きあげたそうです。いまでは京都に一軒のこるだけの遊郭を舞台を通して体験できる貴重なものだと思いました。

ちなみに、水谷八重子さんはもう一本のお芝居『おばあちゃんの子守歌』で主演をつとめられています。私が子どもの頃、テレビドラマで観ていた水谷さん(当時は良重さん)は、あこがれのお姉さまだったのですが、今回は完璧におばあちゃんに化けておられました。これは、娘のかけおちという、どこの家庭にも起こりそうな事件と、それを離れて暮らす祖母にひた隠しにする人たちのどたばたを描いたなんてことないお話なんですが、実際観てみると観客の心のツボをしっかり押さえていて、笑ったり泣いたり、よい心のデトックスになりました。