魔術師見習い天に召される グスタボ・ロルダン氏を悼んで

 以前、一時期ブログにアップしていたことのある記事ですが、4月3日にロルダン氏がなくなられたため、一部加筆しここに掲載してご冥福を祈ることにいたします。

 No es fácil vivir en la tierra de uno. No es fácil. 「自分の土地で生きるのは簡単なことではない。まったくもって簡単ではない。」というフレーズで始まるのは、アルゼンチンを代表する児童文学者のひとりグスタボ・ロルダン(Gustavo Roldán)が、同国北東部の先住民トバの人たちから聞いたお話を文字であらわした「白い鳩がくるとき」。ロルダン氏は1935年同国北東部のチャコ州で生まれ、先ごろ亡くなった。このお話がおさめられている”Cuentos que cuentan los indios.”(インディオの人びとが語るお話集) Alfaguara, 1999.はロルダン氏が北東部の先住民族のトバ、グアラニ、ウィチの人たちから聞いたお話を記したもの。 

 「白い鳩が来るとき」に登場するメツゴシェ(Metzgoshé)は、実在したかどうかも定かではないが、トバのひとたちをつなぐ存在。創世神話の登場人物でもあり、またアルゼンチン独立戦争の英雄サン・マルティン将軍(1778-1850)率いるキリスト教徒たちと闘ったトバの指導者とも伝えられる。

 この物語の伝えるところによると、メツゴシェは彼らの土地を奪おうとやってきた人びとと三年間闘ったが(銃に対して槍で!)、かすり傷ひとつ追わなかったそうだ。しかし、三年がすぎ、多くの兵と武器を積んだ船がブエノスアイレスからベルメホ川をさかのぼり、トバの人たちが住むチャコ低地へやってきて「降伏か、皆殺しか」の決断を迫ったとき、メツゴシェは自ら捕虜となることを決意した。戦いを主張する仲間を、「抵抗し続けるためには生きていなくてはならない」と説得して。そして、いつか彼らの村に白い鳩が飛んできたら、それは自分が死んだということだ、と言い残してブエノスアイレスへ連れて行かれた。メツゴシェの魔術的な力を恐れる人びとによって革にくるまれ、鎖で船につながれ水中を曳かれながら… だが、白い鳩は、いまだに村にやってはきていない。

 いま、ラテンアメリカの各地で、土地権を要求する先住民族の運動が盛んになっている。コロンブスの到来以来、土地をうばわれ、生きる場所を狭められ、さまざまな権利をふみにじられてきた人びとの「自分たちの権利」を求める運動だ。その人たちの世界観を、遠く離れた土地の「私」はどうすれば理解することができるのか? 児童文学を通して民主主義の重さを、声の小さな人びとに耳を傾けることを教えてくれた、自らを「魔術師見習い」と呼んだ愛すべきロルダン翁の仕事をもう一度読み直してみようと思う。