櫛は櫛入れに

五、六年前に、ふらっと京都に出かけたことがあった。そのとき、小さな専門店で買ったつげの櫛。当時(今も?)の自分にはかなり贅沢なもので、お守り代わりに、「清水の舞台から飛び降りる」ような思いで手に入れたのだったけれど、欠けることもなく使えているところをみると、どうやらお店の人のいうように「一生もん」のようだ。

それを買うとき、櫛を納めるケースと櫛の歯を掃除するもの(タコ糸でできている、なかなか面白い形)を勧められたのだけれど、どうもそこまで気が回らず買わずに店を出た。ところがそれから京都に行くチャンスがない。櫛のケースだけを売っているところも見つからないまま、時がすぎた。

つい先日、浅草を人と歩いていて櫛屋の前に出た。奥を覗いてみると、ショーケースの上に櫛入れが並んでいるのが見えた。とはいえ、櫛屋で櫛を買わず入れ物だけ買うのもすまない気がして、遠慮しいしいたずねると「うちのに合わせて作っているから。お持ちの櫛に合うかどうか」と、やっぱりしぶい返事。恐縮しながら、ちょうど荷物のなかにあった櫛を出して見せたら、「ああ、それなら」といって櫛入れを並べて選ばせてくれた。

一見なんの変哲もない品だけど、これが櫛にぴったり合う。長いこと手荒にしてすみませんでした… これからは大事に使わせてもらいます。