ベルタ・カセレスさんの死から3年(1)

以前、日本ラテンアメリカ協力ネットワーク(recom)発行の「そんりさ」に書かせていただいたものをこの機会に。長いので二回にわけました。(2016年6月時点でわかっていたことをベースに書いています)

 

ホンジュラス、ベルタ・カセレスさん殺害をめぐって

 

はじめに

2016年3月2日深夜、ホンジュラス先住民民衆組織委員会(COPINH)の創設メンバーのひとりベルタ・カセレスさんが、インティブカ県ラ・エスペランサの自宅で殺害された。家族は死の直後から、意図的な暗殺だと主張していたが、エネルギー開発株式会社(DESA)の社員など4人が殺害容疑で逮捕された(5月)ことから、今回の事件がベルタさんの取り組んできたダム建設反対運動にかかわっていることはまちがいないようだ。

 ホンジュラスに限らず、世界では、環境保護にかかわる活動家の投獄や殺害、脅迫などが増えている。2015年4月のBBCスペイン語ニュースの報道によると、2014年の1年間で殺害された環境保護活動家は116人(前年比20%増)で、多い順にブラジルの29人、コロンビアの25人、フィリピンの15人となっている。この116人のうち、4割が先住民族の人たちであるという。調査を行った団体グローバル・ウィットネスによれば、ホンジュラスは人口割合の殺害件数がもっとも多く、2002年から14年までに殺害された環境活動家は111人を数える。このような、危険な状況の背景にはなにがあるのだろうか。ベルタさん殺害の件から考えてみたい。

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ゴールドマン環境賞授賞式でのベルタさん。

 

アグア・サルカ水力発電計画

昨年5月、ベルタ・カセレスさんはゴールドマン環境賞を受賞した。この賞は、毎年アフリカ、アジア、島嶼国、ヨーロッパ、南北アメリカの六地域からひとりずつ環境保護活動に貢献した人たちに贈られ、環境のノーベル賞との異名をとる。カセレスさんがこの賞を受賞した理由としては、アグア・サルカ水力発電計画を食い止めてきた功績が大きい。

ホンジュラスは国土の65%が山地で、水力発電は温室効果ガス排出量をおさえた「クリーンな再生可能エネルギー」(DESAサイト)として注目されている。アグア・サルカ水力発電計画は、ホンジュラス北西部のサンタ・バルバラ県から中西部のインティブカ県にかけて流れるグアルカルケ川沿いに17のダムを作り、発電施設を建設する予定であった。

しかし、このグアルカルケ川は、ホンジュラスの先住民族の最大勢力であるレンカ民族の聖地で、通貨単位にもその名を残す英雄レンピラがスペイン人に抵抗して戦った特別な場所であり、モンタニャ・ベルデ生物保護区まで数キロという位置にある。しかし、2009年6月のクーデタ―米国の関与が疑われている―後に施行された「水に関する一般法」、法令233号に基づき、2010年から13年にかけてダム建設計画が承認されたのである。(http://ejolt.org)

この計画に対して、DESAは中米経済統合銀行(BCIE)―日本の国際協力銀行(JBIC)もここに対して融資を行っているーや国際金融公社(IFC):途上国の民間セクター支援を行う世界銀行グループの機関、オランダ開発金融会社(FMO)、フィンランド開発金融会社(Finnfand))などから融資をうけており、京都議定書で定められたクリーン開発メカニズム(CDM)にもとづく投資もそこには含まれている。しかし、ベルタさんの死と、それにつぐネルソン・ガルシアさんの殺害事件(3月15日)を受けて、現在ではBCIEを除き、融資を停止している。