遺伝子組み換えについて考えた

 先月28日、つくば市にある独立行政法人農業生物資源研究所主催の「市民と研究者が一緒に考える遺伝子組み換え」というイベントに参加してきた。
 
 

  プログラム
 1 開会
 2 あいさつ
 3 オリエンテーション
 4 アンケート調査
 5 見学の概要
 6 圃場(畑)見学
   (休憩)
 7 実験
   (1)DNA抽出実験
   (2)展示カイコなどの説明
 8 情報提供
 9 意見交換(研究者と市民を交えた10人程度のグループに分かれて)
 10 アンケート調査
 11 さいごのあいさつ
 12 閉会

  

 という構成で、圃場見学あり、実験ありと盛りだくさんで退屈させず、圃場見学でもいだトウモロコシをゆでて意見交換の席で試食用に供するといった演出もあった。また、最初と最後のアンケートは、説明を受ける前と後で遺伝子組み換え作物に対する印象がどう変わったかを見るためのもののようだった。
 8の「情報提供」でのお話の内容を、いただいた資料をもとにまとめておくと、
・現在日本国内のバイオ製品の市場規模は1兆6762億円、そのうちの半分が医薬品、10%強が洗剤用酵素、そしてのこりの40%弱が農作物
・私たちの身の回りには大豆(枝豆、大豆もやしを含む)、とうもろこし、ナタネ、綿実、アルファルファ、テンサイ(砂糖の材料)などの遺伝子組み換え食品が存在している
・それ以外ではウィルス抵抗性パパイア(ハワイ)、色変わりカーネーション青いバラ(日本)などの実用化例がある。
・世界の遺伝子組み換え作物栽培面積は、現在では米国を中心として1億6000万ヘクタールにのぼっている(日本の国土の約4.2倍)
・5万ヘクタール以上の栽培を行っている国は世界で17か国ある
・世界での遺伝子組み換え作物栽培面積の割合は、当初は先進国が上回っていたが、2011年には先進国と低開発国の割合が半々になった
・作付面積あたりの遺伝子組み換え作物の割合は大豆が75パーセント、トウモロコシが32パーセント、ナタネが31パーセント、綿が82パーセント
・日本が輸入しているトウモロコシのうちおよそ83パーセント、大豆はおよそ70パーセント、ナタネは85パーセントが遺伝子組み換え作物であると推定できる
・なぜ遺伝子組み換え技術を使うのか: 従来の品種改良よりも確実に品種を改良することができる
・安全性評価はどうなっているのか:生物多様性への影響評価(カルタヘナ法)、食品としての安全性(食品衛生法)、飼料としての安全性(飼料安全法)などに依拠して行われる(カルタヘナ法は主に実用化以前の研究開発・実験農場などの施設での使用をカバー)
・2012年5月11日現在で98系統の農作物が商業利用可能に。その他、遺伝子組み換え食品・添加物では201件、組み換えDNA技術応用資料及び資料添加物については61件の安全確認が終了している。
・遺伝子組み換え農作物の可能性: 生産性の向上、環境保全、機能性遺伝子組み換え農作物(ビタミンA補強米、スギ花粉症治療米、病気につよいイネなど)
・安全性評価については、1)組み換え農作物と非組み換え農作物の栄養成分、毒素(アレルゲンなど)、抗栄養素を比較 2)導入した遺伝子の産物(タンパク質)の安全性(新たなアレルゲンにならないかなど)などの観点から審査が行われている。 
 例) 除草剤耐性ダイズで作られる微生物由来タンパク質を100度Cで5分間煮沸したあと、人工胃液とともに37度Cで20秒反応させると微生物由来タンパク質は分解される

 参加者は5人程度のグループに分けられていたので、ほかのグループの方たちのことはわからないが、私のグループでは教育関係、食品などの関連産業に従事する方などがおられ、またほかの班には科学者の卵?、OB?のような方もいらっしゃったようで、終始なごやかにイベントは終了した。全体の印象としては、遺伝子組み換え作物や食品の安全性を市民に理解してもらい、偏見を取り除くためにどうすればいいかという方向性のイベントだったかと思う。といっても一方的に専門家だけが話すのではなく、参加者の話にも耳を傾けている様子が伝わった。

 お話をきいてわかったのは、遺伝子組み換え技術の開発に携わる研究者の方たちは、これまでの人類の歴史のなかで行われてきた農作物・家畜の品種改良の延長に遺伝子組み換え技術の応用を位置づけ、農家の方の苦労を軽減したり、農薬の使用をへらしたり、環境への影響を少なくして食糧生産を可能にしようとして、これらの技術を開発してきているということだ。医療に使える極細の絹糸を作るカイコの開発や、医薬品として使える米の開発などの話をきくと、たしかに科学技術の進歩はすばらしいという気になる。
 だが、遺伝子組み換え大豆の生産のために生きていく土地を追われたり、追われようとしているアルゼンチンやパラグアイ、ブラジルの先住民族の人たちや、農薬のために健康被害が出たと主張するアルゼンチンの闘う母たちの存在を思うと、現行の市場原理を過信した新自由主義的な政策(一国だけでなく世界的に力を行使している、あるいは今後しかねない)にのった形で、資産・所得の平等な再分配や土地改革を行わないまま遺伝子組み換え技術を農業に応用し実用化したとしても、ほんとうに「環境・人にやさしい農業」や「地球規模での」発展にはつながらないことは事実で、このあたりの行き違いをどうやってなくしていくかが課題だと思った。

《当日配布された資料》
 スライド集(44ページ) 
 農業生物資源研究所のパンフレット4種類(研究所について・同遺伝資源センター「農業生物資源ジーンバンク」・食と農の未来を提案するバイオテクノロジー・カイコってすごい虫)
 農業生物資源研究所NIASオープンカレッジのお知らせ・申込み方法 http://www.nias.affrc.go.jp/opencollege/
 同研究所の出版物『分子生物学に支えられた農業生物資源の利用と将来』田部井豊、佐藤里絵、石川達夫 編著(丸善出版株式会社、2011)のチラシ
 メディアの方に知っていただきたいこと(遺伝子組み換え作物・食品) NPO法人くらしとバイオプラザ21 http://www.life-bio.or.jp 2011
1600万トンのトウモロコシはなぜ、海を渡ったのか。 アメリカ穀物協会 2010