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バウムクーヘン(古樹)

 図書館で何気なく手に取った『堀内誠一 旅と絵本とデザインと』(コロナ・ブックス編集部、2009年)を読み始めてびっくり。堀内氏(1932〜1987)は、子どもの頃大好きだった本たちの挿絵を描いていた絵本作家でした。

 『アンアン』や『ポパイ』などの雑誌も手掛けられた売れっ子だそうですが、大変失礼ながら名前はあまり記憶になかったのに、この本(ムック)におさめられた本たちの表紙や挿絵を見ると、涙がこぼれそうなくらい懐かしい気持ちになります。

 この堀内氏が「浦和の師匠」と慕ったのが、かの『ナルニア国物語』などの訳者である瀬田貞二氏というのも新鮮な驚きでした。というのも、ごく最近、瀬田氏の『航路をひらいた人々』(さえら書房、1967年)を読んで、その懐の深さに思いをはせたことがあったからです。(ちなみに、この『航路をひらいた人々』の挿絵画家の名前を調べてみると、面白いことがわかります)

 その瀬田貞二さんが案を出し、堀内氏が絵を描いたグリム原作の『七わのからす』(福音館書店、1959年)について、堀内氏ご自身が描いた文章が引用されていましたので、そのなかで印象に残った部分をご紹介します。

…この絵本はスイスの絵本作家、研究家のヒューリマンさんに、ドイツのにおい[傍点あり]を認めていただきましたが、民族固有のメルヘンは、その土地にしか育たない、生命[いのちとルビ]のバウムクーヘン(古樹)です。味やかおりを、外国人が完全に再現するのは全く至難のことです。…『ぼくの絵本美術館』より

 バウムクーヘンというたとえが、じつにわかりやすく味があります。至難のことだけれども、なんとかそこに近づこうとするところにやりがいがあるのだ!!と、おもわず膝を打ちそうになりました。

 さて、ではここで私の好きな堀内本を三冊あげてみます。

第一位 『太陽の木の枝 ジプシーのむかしばなし1』 フィツォフスキ再話 内田莉莎子訳、福音館書店、1968年
第二位 『ちのはなし』  知識絵本なのにしゃっちょこばらず、しかもテーマは「血」なのに、怖くもグロくもなく、やさしくわかりやすく表現されています。
第三位 選べないから2冊。『人形の家』ルーマー・ゴッデン作、瀬田貞二訳、岩波書店、1967年
    『マザー・グースのうた』谷川俊太郎訳、草思社、1975年
番外 『てがみのえほん』「こどものとも200号」堀内誠一作・絵 福音館書店、1972年

太陽の木の枝―ジプシーのむかしばなし (福音館文庫 昔話)  ちのはなし (かがくのとも傑作集―わくわくにんげん)  人形の家 (岩波少年文庫)  マザー・グースのうた 第1集 おとこのこってなんでできてる おんなのこってなんでできてる  

 はまぞうに表紙画像のあった4冊だけ、紹介しておきます。それぞれ雰囲気がちがって、一人の人の作品とは思わなかった、というのが正直な感想です。
 ともかく、忙しい毎日のなかでひさびさにやすらぎをおぼえた一瞬でした。ありがとう、天上の堀内さん!