明けない夜はない

わたし達の世代にはなんだか胡散臭くしか聞こえなくなってしまった「民主主義」や「連帯」といった言葉がまだ輝いていた時代の舞台を観た。1957年初演『明日を紡ぐ娘たち』広渡常敏と「生活を記録する会」の集団創作、公家義徳演出、東京演劇アンサンブル公演 @ブレヒトの芝居小屋。東京演劇アンサンブルの公式サイトはこちら 

1954年に河出書房から出版された『母の歴史』という文庫本がある(鶴見和子木下順二編)。三重県のある紡績工場の組合のサークル活動の一環で書かれた「綴り方集」だ。中学卒業と同時に信州や新潟などから働きに来た女子労働者たちの作文をまとめたものだ。私の家、私のお母さん、母の歴史、あたらしい愛情というテーマごとに、書かれた時系列で並ぶ作文は、書き手の意識が深まり、互いに共通する問題を発見していく過程をまざまざと見せる。

舞台の上で繰り広げられる、この文集が生まれる過程での、サークルの女性たち、それを指導する青年今井、組合や工場の人たち、そして農村に帰って結婚した女性の姿を通して、多くのことを考えさせられた。農村から働きに来た女性たちは、最初自分たちを「女子労働者」としてとらえているが、自分たちが仕送りしなければやっていけない実家の現実や、自分たちの母の苦労を考えるうちに、「農民」「労働者」というカテゴリーでくくって、組合にいわれるまま運動するだけでは、問題は本当には解決しないということに彼女たちは気づき、工場の問題、村の問題をそれぞれ別個に考えるのではなく、村の青年団の人たちと話し合って、一緒に考えようという動きをまきおこしていく。

おそらくひとりの英雄や、立派な指導者の有無じゃないんだろう。こころを揺り動かす演説や、輝ける旗印ではないんだろう、人間を真に動かしたり、どうしようもない現実を変えるのは。自分で考え、納得して動かなければ、何も変えられはしない。舞台の上で歌われた歌の一フレーズ「たとえどんなに暗くても、明けない夜はない」。